自律型海中ロボットによる海底火山観測



自律型海中ロボットによる海底火山観測に成功



2000年10月26日



東京大学生産技術研究所
 海中工学研究センター




1.概要
 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター(センター長:浦   環 )は1995年に三井造船(株)(社長:岡野利道)と共同で自律型海中ロボット(注1)「アールワン・ロボット(注2、配布資料1、2参照)」を開発しました。自律型海中ロボットの海中観測プラットフォームとしての有効性を確認するために、このたび、海洋科学技術センター(理事長:平野拓也)と共同し、三井造船(株)の協力を得て、2000年10月19日より23日までの間、1989年に噴火した静岡県伊東市沖の海底火山「手石海丘(注3)」にアールワン・ロボットを潜航させました。
 ロボットは、潜航予定海域に支援船から降ろされると、独自に方向を見極めて潜航 し、予め指定されている航路点を次々に通過し、予定された点に浮上しました。ロボ ットは一時間に1回程度海面に浮上して、GPSを利用して自分の位置を確認し、再び 潜航します。そのために、極めて良い位置精度で長時間にわたり全自動運航ができ、 1時間の潜航で60m程度の位置誤差しかありませんでした。
 ロボットは、直径約200mの手石海丘の火口を的確にとらえることができました。このことにより、ロボットは、搭載しているサイドスキャン・ソナーを用いて火口の超音波画像の撮影に成功しました(配布資料3、4参照)。また、北海道大学の蒲生俊敬教授が開発した現場型化学分析装置「GAMOS(注4)」などを用いてマンガンの湧出を検出しました(配布資料7参照)。
 自律型海中ロボットによる海底火口の調査は、我が国では初めてものであり、また 、自律型海中ロボットによる火口のサイドスキャン・ソナーを使った観測は世界でも 例がありません。また、現場型化学分析装置を自律型海中ロボットに装備して観測す るのも世界で初めての試みです。
   観測の結果、火口の詳細な画像を獲得することに成功しました。また、火口中央付 近および火口の中央および側にマンガン濃度が高い部分が観測され、海底から熱水あ るいは間隙水が湧出していると推定されました。
 これまでロボットの着揚収には危険な海面作業が伴いましたが、今回、海洋科学技 術センターが新たに開発した着水揚収装置を用いることにより、安全かつ迅速におこ なうことができました。

2.潜航の概要
第1回潜航(2000年10月19日):
10:25:35潜航開始−10:41:15浮上開始(潜航時間00:15:40)
予備潜航

第2回潜航(2000年10月20日):
11:11:12潜航開始−15:17:38浮上開始(潜航時間04:06:26)
一定深度(50m)、一定高度(15m)、火口内接近(1回)

第3回潜航(2000年10月22日):
11:16:04潜航開始−14:33:26浮上開始(潜航時間03:17:22)
一定深度(65m)、火口内接近(2回)

第3回の潜航パターン(配布資料5、6参照):

  • D点付近で母船から着水させる。
  • 着水点から潜り始め、航路点1(深度65m)に至る。
  • 次いで航路点を順次巡る。
  • 途中の点2、点3、点17、点18では、一旦止まって、海底面からの高度15m まで下降する。点3および点18は、火口の中。点2と点17は火口の外側で同じこ とをおこない、データ比較するためです。
  • 点14では一旦浮上してGPSを使って自分の位置を確認する。
  • 点23から浮上を開始し、点24まで深度10mを保って潜航する。
  • 点24に到着すると、その点で鉛直に浮上する。

 今回の潜航では、火山の噴火の危険性がないため、支援船「かいよう」(海洋科学 技術センター所属)は、ロボットから1km程度離れたところで待機し、超音波でロボ ット位置を検出する装置で、ロボットを監視していました。それによると、ロボット が自分で認識している位置と実際の位置の差は、1時間で約60mと僅かであることが わかりました。この高精度の位置の認識により、ロボットは予め与えられていた航路 を正確にたどり、火口の観測が予定通りできたのです。
 また、ロボットは、最初の航路点近くに降ろせばよく、潜航後は決められた浮上点 に帰ってきます。浮上点の誤差は数10mです。したがって、支援船は、予定浮上点で 待っていればよく、船の負担は極めて小さくなります。

3.サイドスキャン・ソナーのデータ
 サイドスキャン・ソナーは、ロボットの左右下方に超音波を発振し、海底からの反 射を受けて、海底の起伏を写真のように撮る装置です。配布資料3と4とは、ロボット が、火口の西側と北側を通ったときの画像です。火口周縁の崖の様子が細かく見て取 れます。この画像は、サイドスキャン・ソナーのデータを支援船上で処理し、ロボッ トの速度や方向を補正して描いた物です。さらに詳しい解析をおこなえば、多くの情 報が引き出せると考えています。

4.マンガンの検出
 GAMOSは連続的にマンガンイオンの濃度を計測する装置です。配布資料7は、第2回と第3回の潜航のときのGAMOSの計測結果と温度を示しています。第2回の潜航では、12時5分と12時52分に鋭いピークが見られます。12時52分というのは、ロボットが火口へとまっすぐ下に降りている時のことです。第3回潜航でも14時1分に、前回よりは顕著ではないのですが、マンガン濃度が異常に上がっています。これも火口に降りているときの結果です。これにより、火口内および火口外縁部では温泉のような沸きだしがあることが推定されます。なお、GAMOSは海水を吸い込んで処理するために、80秒の時間遅れがあり、水温データよりそれだけ遅れています。

5.おわりに
 アールワン・ロボットは、航行可能な距離が約100kmです。今回の潜航により、操 縦者の手助けが全くなくても、長時間にわたり潜航し、海底あるいはその付近の調査 をすることが可能であることが示されました。例えば、現在、火山活動が活発な三宅 島の近海の海底の状況を調査するには、神津島からロボットを海面に降ろし、その沖 合いから潜航させて観測する方法が考えられます、まず、一定深度を潜航して広い範 囲をサイドスキャン・ソナーなどで調査し、異常を調べます。なんらかの異常が発見 されれば、そこの範囲を一定高度航行させて、GAMOSのような観測装置やサイドスキ ャン・ソナーを使って、詳細な観測をおこないます。こうすれば、噴火の危険がある ようなところの観測が安全かつ精細にできますし、定期的な観測も可能です。

配布資料
  • 1-1〜2)アールワン・ロボット(潜航が終わって海面に浮遊しているロボットと、支援船に回収されるロボット
  • 2)アールワン・ロボットの一般配置図と搭載装置
  • 3)アールワン・ロボットが撮った手石海丘の音響画像例(1)(第2回潜航。ロボットは火口の西側を南から北へと進んでいる)
  • 4)アールワン・ロボットが撮った手石海丘の音響画像例(2)(第3回潜航。ロボットは火口の北側を東から西へと進んでいる)
  • 5)第3回潜航の航跡図(計画)
  • 6)第3回潜航の航跡図(ロボットが認識した航跡)
  • 7)GAMOSによるマンガンの異常値

  • 注1)自律型海中ロボット:
    注1:エネルギを内臓し、センサ情報を基にして搭載されたプログラムで潜航する無索無人潜水機。AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれる。
    注2)アールワン・ロボット:
    アールワン・ロボットは1996年に最初の本格的な潜航をおこない、1998年には 連続12時間37分の潜航に成功している。
    全長:8.27m 胴体直径:1.15m 重量:4.35トン
    巡航速力:3ノット 最大潜航距離:100km 潜航深度:400m。

    注3)手石海丘:
    手石海丘は、伊東市の北東(北緯34度59.4分、東経139度08.0分)にあり、直 径約200mで、火口の最も深いところは122mとされている。1989年7月13日に噴火した。
    注4)現場化学分析装置(GAMOS:Geochemical Anomaly MOnitering System):
    北海道大学  蒲生 俊敬 教授
    (連絡先:〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目 北海道大学大学院 理学研究科地球惑星科学専攻、
     電話011-706-2725、E-mail:gamo@ep.sci.hokaidai.ac.jp)らが開発したAUVや有人潜水艇に搭載可能な
    小型装置。海水中にはほとんどないマンガンイオンの濃度を連続的に測れる。マンガンは、熱水とか 間隙水が海底から噴出しているような還元的な環境に存在する。鉄を連続的に測れる装置が現在開発中。
     

    連絡先
    東京大学生産技術研究所 海中工学研究センター
    東京都目黒区駒場 4-6-1
    浦   環
    E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
    電話:03-5452-6487