鹿児島湾にて最新鋭AUV/ROV「ツナサンド」が熱水チムニーと熱水湧出を多数発見
さらに
AUV「トライドッグ1号」がサツマハオリムシコロニーの全体を写真撮影に成功

2007年09月20日

東京大学生産技術研究所海中工学研究センター 浦   環
東京大学海洋研究所 窪川かおる
岡山大学大学院自然科学研究科 山中 寿朗

ツナサンド開発チーム    
                  東京大学生産技術研究所試作工場
(株)海洋工学研究所 伊藤  譲
(独)海上技術安全研究所 田村 兼吉
(株)KDDI研究所 小島 淳一
東京海洋大学海洋工学部海事システム工学科 近藤 逸人


1.概要

 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター(センター長:浦 環)は、2006年2月から、東京大学海洋研、岡山大学、九州大学等と共同して、自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle:注1参照)を鹿児島湾(図1参照)に展開し、浅海域熱水活動と周囲に棲息するサツマハオリムシ(図8注2参照)の観測をおこなうことで、自律型海中ロボットを使った新しい総合的な海洋底観測システムの開発を進めています。2007年8月16日から8月26日まで、海洋研究開発機構(理事長:加藤康宏氏)所属の淡青丸(船長:藤田 潮氏、KT-07-20航海、主席研究者:浦 環)を支援船として若尊火口とハオリムシサイトに、AUV/ROV「ツナサンド」(表1図2,図3注3参照)とAUV「トライドッグ1号」(表2図6,図7注4参照)を展開し、観測をおこないました。
 若尊火口北西部(注5参照)の200m深度において、「ツナサンド」をケーブルで船上のコンピュータとつないで半自動で展開し、4カ所から激しく熱水が湧出しているのを発見して観察、その内の1つは3mにもおよぶ高さの熱水チムニーとなっているのを撮影しました。なお、「ツナサンド」は2007年3月に完成し、今回の潜航は実海域における処女潜航でした。
 また、それに先立ち、同湾北西部のハオリムシサイト100m深度に「トライドッグ1号」を展開し、30mx80mの海底を全自動で一定高度から写真撮影をおこない、サツマハオリムシのコロニーの全貌を明らかにしました。このような広域の海底の写真撮影は、我が国では初めてのものですし、AUVによる広域写真撮影は世界にも例がないものです。
 これら小型AUVは、大きな支援施設を必要とせずに海域に容易に展開でき、これまで利用されてきた大型のROVでは観測できなかったような、広い海底の観測、面的な写真撮影に威力を発揮することが示されました。自然物だけでなく、沈没船の調査や海底遺失物・海底遺跡の調査などを対象とした、海底の新しい観測手法として今後の成果が期待されます。

2.「ツナサンド」による200m水深海域での熱水活動の調査

 2007年8月25日、鹿児島湾の若尊火口北西部(深度200〜210m)において通信用ケーブルを取り付けて「ツナサンド」を2回展開し、2007年6月に山中寿朗准教授(岡山大学)らのグループが熱水噴出孔を発見したとされる点を基準点にとり、その周辺を長さ20m、間隔2.5mで測線を設定し、熱水噴出孔の探索とそのビデオ撮影を目的とした合計約6時間の調査を行ないました(図4参照)。
 その結果、図5に示すような活発な熱水湧出活動を4カ所に発見しました。「ツナサンド」はそれぞれの場所を詳細に観測し、その内の一つは高さ3mにもなるチムニー(利用した遊漁船の船長の名前をとって「田中温泉」と命名)を形作っていることを確認しました。ロボットはそのチムニーを一周してチムニーをビデオ撮影しました。「ツナサンド」は処女潜航であったので、テレビカメラ以外の特段の観測装置を取り付けてはいませんでしたが、このような熱水活動が、若尊火口北西部には多数あることを確認しました。
 「ツナサンド」は「定点保持」や「距離指定による移動」機能を備えているため、潮流やアンビリカルケーブルの影響を受けずに安定した観測を行うことができます。今回の観測においても、非常に安定したビデオ撮影が行うことができました。図5-2と-3とは同一のチムニー(田中温泉)を別アングルから撮影したものです。
 今回の調査では、本年6月に発見されていたもの(それを発見することはできませんでした)とは異なると考えられる高さ3mのチムニーや多数の熱水湧出を短時間の内に発見し、チムニーおよび周辺海底の詳細なビデオ撮影に成功しました。また、プロファイリングソナーにより、チムニー周辺の50×100mにおよぶ海底高度マップを取得しました。特徴のある海底地形を北から
地獄谷温泉、チムニーU、田中温泉、笑窪山、大福山
と名付けました。
 小型AUV/ROVにて熱水活動と熱水チムニーが発見・ビデオ撮影されたのは、世界で初めてのことです。「ツナサンド」を使って若尊火口の熱水地帯の全貌が明らかになるのはそう遠くのことではありません。

3.「トライドッグ1号」によるサツマハオリムシのコロニーの全貌調査

 若尊火口東側にある水深約100mの海丘の頂上付近には、海底からガスが吹き出し、その周囲にサツマハオリムシ(図8図9参照)が生息していることが、1993年に発見されました。ROV(Remotely Operated Vehicle:遠隔操縦式有索無人潜水機)などを使った観測がこれまでにおこなわれていますが、噴気の影響で、母船からROVの位置を正確に求めることが困難で、サツマハオリムシコロニーの全貌は明らかになっていません。噴気は音波を強く反射するために、母船からの音響装置でROVを見失うことがままあるからです。
 「トライドッグ1号」は、通常はじゃまになる噴気を、自然のランドマークとして利用し、さらに、音響を反射させる反射材を別途沈めて、人工ランドマークとし、それらの相対位置を求めることにより、噴気の中でのロボット位置を正確に求めることができます。その技術を利用して、本年8月に12回の全自動潜航をおこない、海底からの高度を1.2mに保って、1m幅で測線(図9)を構成し、海底面を直上から撮影しました。その映像をつなぎあわせることにより、サツマハオリムシコロニーの分布の全貌(図10図11)を明らかにしました。
 この技術が確立したことにより、ハオリムシサイトの全域観測が容易になり、ハオリムシコロニーやバクテリアマットの消長、噴気とハオリムシコロニーとの関係などが明らかになると考えられます。

4.連絡先

  1. ロボットについて
    東京大学生産技術研究所海中工学研究センター
    センター長、教授 浦  環
    〒153-8505 東京都目黒区駒場4−6−1
    電  話:03−5452−6487
    ファクス:03−5452−6488
    E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
    ホームページ:http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp

  2. サツマハオリムシなど生物について
    東京大学海洋研究所
    教授 窪川かおる
    〒164-8639中野区南台1-15-1
    電 話:03−5351−6487
    E-mail:kubokawa@ori.u-tokyo.ac.jp

  3. 熱水活動などについて
    岡山大学大学院自然科学研究科
    准教授 山中 寿朗


図版集
  1. 「ツナサンド」の仕様
  2. 「トライドッグ1号」の仕様
  3. 観測地点(鹿児島湾と若尊火口)
  4. 「ツナサンド」の写真
  5. 「ツナサンド」の部品説明図
  6. 「ツナサンド」の航跡と発見された熱水活動の場所
  7. チムニーなどの写真(12枚)
  8. 「トライドッグ1号」の写真
  9. 「トライドッグ1号」の一般配置図
  10. サツマハオリムシの写真(水槽内:窪川提供)
  11. サツマハオリムシのコロニーの拡大写真(「トライドッグ1号」が撮影
  12. サツマハオリムシのコロニーの全貌の写真
  13. サツマハオリムシのコロニーの分布の解説図


注1)自律型海中ロボット:
エネルギを内蔵し、センサ情報を基にして搭載されたプログラムで自動的に潜航する無索無人潜水機。AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれます。無人潜水機は、通信と電力補給のためのケーブルで母船と繋いで遠隔操縦をする有索無人潜水機ROV(Remotely Operated Vehicle)が現在は主流ですが、昨今は、索のないAUVの利用が進みつつあります。深海用のROVはケーブルを取り扱う装置が大きなものとなり、船上施設や作業が簡単ではありません。

注2)サツマハオリムシ(Lamellibrachia satsuma):
環形動物門多毛綱ケヤリムシ目シボグリヌム科サツマハオリムシ属サツマハオリムシ。体内に化学合成細菌を共生させ、火山ガスに含まれる硫化水素などの硫黄分を鰓から取り込み、細菌からの栄養で生きています。
 体は細長い蠕虫状で、タンパク質やキチン質からなる棲管に入って鰓だけを水中に露出しています。口や消化管は持っていません。ハオリムシは深海の熱水噴出域および湧水域に生息しています。鹿児島湾のサツマハオリムシは、世界でもっとも浅い海80-100mで発見されています。


注3)「ツナサンド」:
(財)シップアンドオーシャン財団平成16-18年度技術開発基金補助研究「新形式海中モニタリングシステムの研究開発」をベースにして2004年度より開発され、2007年3月に完成したAUV。
開発チームは、
東京大学生産技術研究所 浦 研究室
東京大学生産技術研究所 試作工場
(株)海洋工学研究所 取締役 伊藤  譲
(独)海上技術安全研究所運航・システム部門 部門長 田村 兼吉
(株)KDDI研究所 プロジェクトリーダー 小島 淳一
東京海洋大学 海洋工学部海事システム工学科 准教授 近藤 逸人

 沈没船の探索、熱水鉱床の開発、大深度での対象物への接近観測とサンプリングなどを可能とするホバリング型AUV。ホバリング型とは、高速で長距離航行するような「r2D4」(東京大学生産技術研究所が2003年に開発したAUVで、2006年末にはインド洋中央海嶺にて熱水活動を発見)とは異なり、狭い(数百mx数百m)の範囲を詳細に探索するAUVです。浦研究室で1990年代から開発している「ツインバーガー」「淡探」「トライドッグ1号」「タムエッグ2号」などがその例です。
 ツナサンドは「r2D4」並みの高精度慣性航法装置(INS)を搭載していて、指定された海底位置に自動的に潜航することができ、沈没船や熱水活動の探査に適しています。
 
表1に示す仕様となっていて、1,500m深度まで潜航可能です。
現場での過酷な作業に耐えられるように頑強な設計になっていることが大きな特徴ですが、一方で、細いケーブルを接続して、遠隔操縦と自動操縦をハイブリッドでおこなうことができます。すなわち、AUVの高度な自動航行の性能の上にROVの機能を重畳することができます。そのために、自動航行中にロボットが撮影している海底をリアルタイムで操縦者達が観測できる特徴があります。
 また、より位置制度向上させるために、海底地形照合(Terrain Navigation)をおこなって位置を求める手法を備えようとしています。今回の潜航は、その手法の開発の準備段階であり、ロボットの性能および頑強性を試験する目的でおこなわれました。

注4)「トライドッグ1号」:
 AUVの知的行動を高度化するために1999年に開発された全長約2mの小型ホバリング型AUV。6台のスラスタによってサージ(前後)、スウェイ(左右)、ヒーブ(上下)、ヨー(方位)の4自由度を制御します。このようなタイプは航行型AUVと比べて運動自由度が高く、狭い範囲の詳細観測に向いています。観測装置として海底面撮影用カメラ2台とシートレーザーによる海底地形計測装置1台を備えています。2004年には釜石湾口の防波堤大型ケーソン周辺の観測に成功しています。
 「トライドッグ1号」は慣性航法装置を持たないため、「ツナサンド」や「r2D4」のように絶対位置を基準とした測位はできませんが、プロファイリングソーナー(鋭い音響ビームで水平方向を360度スキャンするソーナー)によって音波を反射する鉛直棒状のランドマークを探索し、これを基準とすることで高精度な相対測位を行うことができます。ランドマークとして、あらかじめ設置する人工の音響反射材以外に自然の噴気が利用できるため、音響測位が困難であった海底噴気帯においても安定した測位が可能で、条件がよければ0.1〜0.5m程度の誤差で水平位置を求めることができます。この精度のおかげで、撮影された画像を簡単につなぐことができます。  観測経路はスタート地点から相対的に決められたウェイポイントを辿ることを基本としますが、発見したランドマークの位置・種類に応じてリアルタイムに経路を変更し、観測あるいは回避を行います。
 レーザーによってランドマークの種類(噴気・人工反射材)を識別し、人工反射材が2つ見つかった時点でそれらを基準とするウェイポイント航行へ移行し、地球固定座標系における観測を行います。


注5)若尊火口における熱水活動:
 若尊火口における熱水チムニーの最初の発見は、共同発表者である山中寿朗が2007年6月7日(なつしまNT-07-09航海、主席山中寿朗)に海洋研究開発機構の大型ROV「ハイパードルフィン」を使ってなされました。今回は、その情報を基に、同海域に「ツナサンド」を2回潜航させました。6月に発見されたものを見いだすことはできませんでしたが、その近くに別の多くの熱水活動およびチムニーを発見しました。


連絡先
東京大学生産技術研究所 海中工学研究センター
東京都目黒区駒場 4-6-1
浦   環
E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
電話:03-5452-6487