深海知能ロボット「r2D4」



深海知能ロボット「r2D4」

2003年07月23日

東京大学生産技術研究所
海中工学研究センター 


1.概要

 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター(センター長:浦   環 )は1984年より自律型海中ロボット(注1)の開発研究に着手し、これまでに様々な自律型海中ロボット(http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp/参照)を開発し、多くの成果を挙げてきました。その成果は、2000年度におこなった「アールワン・ロボット(注2)」による手石海丘調査の成功、琵琶湖の湖水環境調査専用ロボット「淡探(たんたん)」の建造と運用、あるいはザトウクジラの追跡実験にまで及び、様々なロボットの応用展開が試みられるようになっています。海中をその活動領域とする知能ロボットである自律型海中ロボットは、未知の海中を観測する新しい手段として実用化の段階に至りつつあるのです。

 これらの成果を踏まえて、2001年度から5年間の計画で、熱水地帯を集中的に観測できる新しい深海知能ロボット「r2D4」を開発し、これを用いてマリアナ海域などの観測をおこなうプロジェクト「「アールツー・プロジェクト(R-Two Project)(注3)」がスタートしました。このプロジェクトは、日本学術振興会の学術創成研究「深海知能ロボットの開発研究」(注4)の一環としておこなわれているものです。

 本プロジェクトの目的は、まず初めに、高度に知能化された信頼性の高いロボットを研究開発し、次いで、これを熱水地帯の連続観測に利用して、熱水地帯で起こっている現象を観測し、技術へのフィードバックをおこない、自律型海中ロボットを中心に据えた新しい海底観測システムを構築することです。

 2003年7月に「r2D4」のハードウェアおよび基本的なソフトウェアの開発が完了(製造:三井造船(株))、7月7日に駿河湾北部において潜航、7月15日〜19日には日本海佐渡沖(三井造船(株)水中機器部と共同研究)において潜航し、サイドスキャンソナーを用いて海底面の観測をおこないました。ロボットは予定されたWay Pointを順次通過して、海底面のサイドスキャン画像の撮影、CTDO計測をおこないました。

 このロボットの完成により、熱水域の海底面の観測のみならず、海底遺失物の捜索、海底火山の観測、遊泳する生物の観測、海水環境の観測、海底観測ステーションとの共同観測などこれまで困難であったさまざまな海中観測が、ハンディーなシステムによって可能となり、また海中技術へのフィードバックが期待されます。

   なお、本年12月には沖縄トラフの海山にある熱水地帯の観測を予定しています。

2.「r2D4」の概要

 「r2D4」は先行するアールワン・ロボット開発で得た技術をそのまま移行できるハードウェア構成になっていて、2年という極めて短い開発期間で高い性能のロボット建造を実現しています。

1)ロボットの特徴

  • 小型軽量(全長4.4m、空中重量1.6トン)
    大型の支援母船を必要とせず、支援船を特定しない
    全自動の潜水機であり、専用の操縦者を必要としない
  • 自己完結型
    トランスポンダ設置などの支援が不必要
    高精度位置標定が可能(光ファイバジャイロとドップラーソナー)
    4時間の潜航で約30mの位置誤差
    高い信頼性と十分な安全対策
  • 観測用センサからのデータをロボットの頭脳への取り込み
    複雑な環境の変化を認識する
  • 観測経路のダイナミックな変更
    特異点の発見があったときのその原因を探る探索活動

2)通常おこなうミッションの概要

 ロボットは、緯度経度深度で与えられた航路点(Way Point)を逐次通過して、観測をおこないます。サイドスキャンソナーやインターフェロメトリーソナーなどを用いて海底面形状や海底近傍の広域観測をおこないます。その途中で、特異な観測値を得たときには、航路計画を変更して、特異現象の原因を調べるためにその地点周囲のより詳細な観測をおこないます。

3)「アールワン・ロボット」との比較
 「r2D4」では、支援船の機能を多く必要としないように小型軽量化に努めています。ただし、観測用のペイロードスペースは十分に確保します。また、マリアナトラフの熱水地帯の観測が可能なように4,000m深度への潜航が可能な耐圧性能を持たせています。
 アールワン・ロボットとその主な形状や機能を比較すると、次の表のようになります。
項目 r2D4 アールワン・ロボット
全長 4.4m 8.27m
胴体幅 1.08m 1.15m
胴体高さ 0.81m 1.15m
空中重量(W/Oペイロード) 1.506トン 4.55トン
空中重量(ペイロード込み) 1.63トン 4.74トン
最大潜航深度 4,000m 400m
航続距離 60km 100km
エネルギ源 リチウムイオン二次電池 CCDEシステム
最大速度 3ノット 3ノット
Main CPUPowerPC 233MHzMC68040×2
OS VxWorksVxWorks
航法装置INS(FOG)+DVLINS(RLG)+DVL


4)主要な観測用機器
 一般的な観測機器から熱水地帯をより詳しく理解するための観測機器を装備することができます。現在搭載している観測機器は、以下のものです。

   ・サイドスキャンソナー ・インターフェロメトリソナー(精度約1m)
   ・ビデオカメラ*2 ・酸化還元電位計
   ・3軸磁力計 ・マンガンイオン濃度計
   ・pH計 ・濁度計
   ・熱流量計 ・酸素濃度計


3.駿河湾と佐渡沖での潜航の概要

 自律型海中ロボットは、その観測活動を通じて性能を向上するように改良していくべきものです。そこで、ハードウェアと基本的なソフトウェアの完成とともに、積極的に観測活動をおこなおうとしています。7月には2カ所での潜航をおこない、サイドスキャンソナーの画像イメージの撮影とCTDOによる観測をおこないました。データの解析とロボットの性能の向上は今後の重要な課題です。

潜航
番号
潜航場所潜航日時最大潜航
深度
目的
#1 駿河湾北部  2003年7月 7日
10時26分-11時01分
 194m大陸棚斜面上部の観測、高度30m
#2 駿河湾北部  2003年7月 7日
11時13分-12時07分
 444m大陸棚斜面上部の観測、高度30m
#3 日本海佐渡島両津沖  2003年7月15日
12時10分-14時06分
 280m両津湾中央部観測、高度70m
#4 日本海佐渡島両津沖  2003年7月18日
11時59分-16時43分
 550m両津湾断層観測、高度50m
#5 日本海佐渡島両津沖  2003年7月19日
10時37分-14時36分
 418m両津湾断層観測、高度30m


4.「r2D4」から期待される成果

 熱水地帯の広域的な活動状況が観測されます。また、熱や二酸化炭素などが海底からどのように海中に放出されているのかが理解され、全球におけるそれらの循環の基礎データが得られることが期待されます。

 また、このロボットの完成により、新しい観測プラットフォーム技術が確立され、熱水域の海底面の観測のみならず、海中に関する様々なミッション、例えば、海底遺失物の捜索、海底火山の観測、遊泳する生物の観測、海水環境の観測、海底観測ステーションとの共同観測などがハンディーなシステムによって可能となります。

5.今後の観測活動

 現在、「r2D4」を用いた観測計画で確定しているものについては
 
2003年度
 7月:日本海佐渡沖での観測(東京大学海洋研究所「淡青丸」、終了)
12月:第四与那国海山・鳩間海山の熱水地帯の観測(JAMSTEC「よこすか」)
 
2004年度
マリアナ背弧海盆などの熱水地帯の観測(東京大学海洋研究所「白鳳丸」)
 
2005年度
未定
 
2006年度
マリアナ背弧海盆などの熱水地帯の観測(東京大学海洋研究所「白鳳丸」)
インド洋中央海嶺(東京大学海洋研究所「白鳳丸」)

なお、別のプロジェクトSMAPS(Super-detailed Mapping of Seafloor)と連携した熊野灘沖の海底観測も計画しています。さらに、マッコククジラやザトウクジラなどの鯨類の観測も検討中です。

6.本件についての問い合わせ先

連絡先: 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター
センター長、教授 浦 環
〒153-8505東京都目黒区駒場4−6−1
電  話:03−5452−6487
ファクス:03−5452−6488
E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
ホームページ:http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp

配布資料
  1.  「r2D4」の写真
  2.  「r2D4」の一般配置図
  3.  佐渡沖の航跡図と#4潜航の深度図
  4.  佐渡沖のサイドスキャン画像-1
  5.  佐渡沖のサイドスキャン画像-2
  6.  深海知能工学の創生とミッションの概念図


注1)自律型海中ロボット:
エネルギを内蔵し、センサ情報を基にして搭載されたプログラムで潜航する無索無人潜水機。AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれます。無人潜水機は、通信と電力補給のためのケーブルで母船と繋いで遠隔操縦をする有索無人潜水機ROV(Remotely Operated Vehicle)が現在は主流ですが、今後は、索のないAUVの利用が進むものと考えられます。深海用のROVはケーブルを取り扱う装置が大きなものとなり、船上施設や作業が簡単ではありません。

注2)アールワン・ロボット:
「アールワン・ロボット」は東京大学生産技術研究所と三井造船株式会社との共同研究によって開発され、1996年に最初の本格的な潜航をおこない、1998年には連続12時間37分の潜航に成功、2000年には伊東市沖の手石海丘の全自動観測に成功し手石海丘の詳細なサイドスキャンソナー画像を撮影しています。

注3)アールツー・プロジェクト(R-Two Project):
Rは中央海嶺を意味するRidge Systemから来ています。その第一期計画がアールワン・プロジェクトで、本計画は第二期なのでアールツー・プロジェクトと呼んでいます。「D4」は最大潜航深度(Depth)が4,000mであることを意味します。

注4)学術創成研究「深海知能ロボットの開発研究」:
学術創成の研究チームは、工学系と理学系の合同で構成されています。工学系は、東京大学生産技術研究所海中工学研究センターの所属であり、理学系は熱水系の研究者として日本を代表する方々です。
   
氏   名 所   属    専  門     担    当     
浦   環
(代表)
 東京大学
 ・生産技術研究所
海中ロボット学研究の総括
自律型ロボットの設計研究
浅田  昭  東京大学
 ・生産技術研究所
海中音響システム工学 ロボット音響システムの研究
藤井 輝夫  東京大学
 ・生産技術研究所
海中バイオメカトロニクス知的制御の研究
能勢 義昭  東京大学
 ・生産技術研究所
海中ロボット学深海ロボット機械機能の研究
玉木 賢策  東京大学
 ・海洋研究所
地球テクトニクス 海底下構造の観測研究
蒲生 俊敬  北海道大学
 ・大学院理学系研究科
海洋地球化学 熱水地帯の化学観測装置の研究
藤本 博巳  東北大学
 ・大学院理学研究科
海底物理学 海底磁化構造解析
中村 光一  産業技術総合研究所
 ・海洋資源環境研究部門
海洋地質学 熱水地帯の化学観測装置の研究
 

連絡先
東京大学生産技術研究所 海中工学研究センター
東京都目黒区駒場 4-6-1
浦   環
E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
電話:03-5452-6487