自律型海中ロボット「アールワン・ロボット」 12時間連続潜航に成功


1)概要

 東京大学生産技術研究所の海中ロボット研究グループ(代表 浦 環 教授)は、三井造船株式会社(社長 岡野利道)と共同で、次世代の海洋観測プラットフォームとして注目されている自律型海中ロボット(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)(注1)のプロトタイプとして閉鎖式ディーゼルエンジン(CCDE:Closed Cycle Diesel Engine)(注2)を搭載した「アールワン・ロボット」の研究開発を1990年より進めてきました。1998年6月16日にアールワン・ロボットを和歌山県田辺市沖の太平洋で連続12時間38分約70kmにわたって潜航させることに成功いたしました。これは日本における自律型海中ロボットの連続潜航時間および距離としては最長のものです。(注3)
 この潜航の成功は、アールワン・ロボットの実用性を証明し、今後の自律型海中ロボット開発に弾みをつけるものです。



2)潜航の概要

 本潜航の目的は、12時間を超える連続潜航をおこなうことと、紀伊水道南部の海水の観測です。  ロボットは、1998年6月16日和歌山県由良湾の入り口にある蟻島の南西側から午前7時7分に潜航を開始して、深度10mで紀伊水道中央に出て、次いで、紀伊水道を南下し、約30km南方の北緯33度39分30秒で反転し、往路の西側を北上して潜航開始地点に戻り、午後7時45分に浮上しました。田辺沖では、前進しながら10mと50m深度を上下に14回往復して、温度、塩分濃度などを計測して、鉛直面内の分布を明らかにし、おりから黒潮の大蛇行が始まっている紀伊水道南部の観測をしました。



3)ロボットの概要

 アールワン・ロボットを開発するプロジェクト「アールワン計画」は、1990年度より民間等との共同研究という形で、東京大学生産技術研究所と三井造船(株)との共同研究プロジェクトとして開始されました。「アールワン」のアールは、中央海嶺を意味する「Ridge」のイニシャルから取られています。1996年8月に最初の本格的な潜航に成功しています。このときの第9潜航は、連続4時間約20kmの潜航でした。ロボットの特徴は、閉鎖式ディーゼルエンジン・システムをエネルギー源としていることと広いペイロードスペース(注4)が用意されていることです。閉鎖式ディーゼルエンジンは世界各国で研究が進められていますが、自律型海中ロボットに搭載されて潜航した例は、「アールワン・ロボット」が唯一のものです。
 ロボットの主要目は、
        全長(先端から推進器後端)      8.3m
        胴直径                          1.2m
        水平尾翼全スパン                1.8m
        空中重量                        4.4ton
        最大潜航深度                    400m
        最大速力                        3.6ノット
        航続時間                        24時間(2.3ノット)
        エネルギ源                      閉鎖式ディーゼルエンジン・システム
            出 力                        5kW
           容 量                      60kWh
          エンジンおよび発電器        市販品
        主コンピュータ                  MC68040x2
        航法装置                        ドップラーソナー付き慣性航法装置
        ペイロードスペース              0.6m



4)アールワン・ロボットの今後の展開の予定

 本年度、新たに超精密重力計、微量金属元素計測装置、サイドスキャン・ソナー、およびGPS装置を搭載します。さらに高度な調査活動をおこなえるようにロボットのソフトウェアを開発します。  来年度は、それらの装置を使って、例えば明神礁海域の調査をアールワン・ロボットでおこなう予定です。  また、並行して、琵琶湖調査用の自律型水中ロボットの開発や、深海に沈没した船舶を調査する自律型海中ロボットの開発研究をおこなう予定です。

  • 注1:エネルギ源を自ら持ち、コンピュータの指示で作動する「鉄腕アトム」のようなロボット。遠隔操縦の潜水機(ROV:Remotely Operated Vehicle)のように支援船とケーブルで繋がれていないので、長時間自由に潜航できることが特徴です。
     海中や海底の計測は、観測母船から計測器を降ろしておこなうのが一般的です。しかし、海水の広い領域にわたっての計測、深海底や大洋底あるいはプレートの生成される中央海嶺の広い海域での計測は、伝統的な方法では不可能な場合が多く、そのために海には未知の領域が広く残っているといえましょう。そこで、有索潜水機のようにケーブルに拘束されることなく、また、有人潜水艇のように人命に関する特別の配慮のいらない自律型海中ロボットが自動的に計測等の海中活動をおこなうことが望まれています。また、海底火山活動がある危険な海域の調査活動は、アールワン・ロボットのような自律型海中ロボットを用いる以外に適当な手段がないといえます。
     海中ロボットの形式は種々考えられていますが、アールワン・ロボットのように長距離にわたって潜航するものは航行型と呼ばれます。航行型海中ロボットがロボットの特徴を生かして、広い海域で長時間の活動をおこなうには、容量が大きく、安価でかつ高密度のエネルギ供給システムが必要です。また、ロボットが自律的に運転されるためには、そのシステムの高い信頼性が要求されます。

  • 注2:ディーゼルエンジンの排気ガスから炭酸ガス、煤、水蒸気などを取り除き、酸素を加えて吸気するシステムです。排気ガスを外に出さないために閉鎖空間で使うことができます。

  • 注3:これまでの日本での自律型海中ロボットの潜航実績は、同ロボットが1996年8月21日に成功した連続4時間約20kmの潜航が最長のものです。

  • 注4:海中の観測機器は大きなものが多いので小型ロボットには取り付けられません。



[本件に関する問い合わせ先]

東京大学生産技術研究所  浦 研究室  03-3402-6231 内線 2280
三井造船株式会社   総務部広報室 03-3544-3147


Last modified: Tue Jul 21 10:32:29 1998
URA Laboratory, IIS, The Univ. of Tokyo / auvlab@iis.u-tokyo.ac.jp