深海知能ロボット「r2D4」による石垣島沖黒島海丘への潜航


深海知能ロボット「r2D4」による石垣島沖黒島海丘への潜航

2003年12月25日

東京大学生産技術研究所
海中工学研究センター 


1.概要

 自律型海中ロボット(注1)は、海中や海底の観測のための新しい動くプラットフォームとして発展が期待されており、研究開発が進んでいます。海底に拡がる背弧海盆や中央海嶺の熱水地帯、大陸棚斜面のメタンハイドレート地帯などは広大であり、自律型海中ロボットを用いた観測活動が期待されている海域です。

 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター(センター長:浦 環 )は1984年より自律型海中ロボットの開発研究に着手し、これまでに様々な自律型海中ロボット(http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp/参照)を開発し、多くの成果を挙げてきました。中型の自律型海中ロボット「r2D4」(注2、注3)は、深海知能ロボットとも呼ばれる最新鋭のロボットで、2003年7月に最初の潜航をおこない、日本海の佐渡島沖の断層の観測に成功しています。

 「r2D4」を展開して潜航経験を増やし、潜航結果と観測結果をフィードバックして「r2D4」の性能を向上させ、また、無人機の自律機能の可能性を探るために、「r2D4」の研究開発チーム(東京大学生産技術研究所、同海洋研究所、東北大学、京都大学、産業技術総合研究所、および三井造船(株)(社長:元山登雄)のメンバーにより構成される)は、海洋科学技術センター(理事長:平野拓也氏)と電力中央研究所(理事長:佐藤太英氏)と共同して、海洋科学技術センターの「よこすか」(船長:湯川 修氏)を支援母船として12月15日に横須賀を出港し、相模湾の相模海丘にて着揚収訓練と潜航試験を行った後、18日に石垣島南方の黒島海丘に到着、21日までに4回の潜航をおこないました。19日は海況が悪く、潜航を断念して島影に船を避難させています。

 当時は、大陸の高気圧の影響で、風速が15m/秒、波高が3mを越えるような荒れた海況でした。潜航現場での着水揚収作業は滞りなくおこなわれました。ただし一度だけは、浮上した「r2D4」を安全のために波の比較的穏やかな海域に曳航して揚収しました。潜航中は、「r2D4」の水中位置を「よこすか」に搭載されている音響測位置装置(SSBL:Super Short-Baseline Acoustic Positioning System)によって確認しています。ですから、浮上後に確実に揚収することができました。

 なお、来年5月にはマリアナ背弧海盆の熱水地帯観測を予定しており、今回の黒島海丘潜航によりマリアナへと一歩近づいたといえます。

2.黒島海丘での潜航の概要

 1)黒島海丘
 黒島海丘は、沖縄県石垣島の南方約25kmにあり、その頂部は約620mの深度です。海底下にはメタンハイドレートが存在し、メタンガス噴出口からメタンや冷水が湧出していることが知られています(町山栄章他、JAMSTEC深海研究22号、2003年)。東シナ海では冬季には強い季節風が吹き、波が高いので「r2D4」を潜水させることは容易ではありません。しかし、黒島海丘海域では石垣島や西表島の島影になるので、潜航するチャンスが沢山あります。

 当初は、潜航目標海域として沖縄トラフの鳩間海丘を第一と考えていましたが、石垣島北方の海況は更に悪く、鳩間海丘への潜航を断念し、第二の目標海域である黒島海丘に潜航しました。

2)潜航方法
 「r2D4」は、潜航直前に緯度、経度及び深度で表された航路点(Way Point)および航路点間の行動様式が書かれた潜航計画表を受け取ります。海面上の「r2D4」は潜航開始の指示を無線で受けるとこの計画表に従って潜航します。障害物を回避する行動や自身の状態をモニターして行動計画を変更することに関して、「r2D4」はオペレータの指示を仰ぐことはせず、自ら決定して潜航をおこないます。したがって、母船上の我々は、「r2D4」に取り付けられた音響発信器(トランスポンダ)からくる信号により「r2D4」の位置を知って、帰ってくることを待つだけです。

 「r2D4」の内部状態は、音響通信装置を使ってモニターすることができます。しかし、それは、母船上の我々が安心するためにのみ使い、緊急の場合(例えば海況が急に悪くなって浮上しなければならない場合)や、「r2D4」の慣性航法装置に誤差がたまってきて位置誤差を補正する必要が生じた場合など以外に、我々は「r2D4」に何かを命令することはありません。

3)潜航
 4回の潜航は下表に示す通りです。海況および時間的な制約の中で最大限の潜航をおこないました。

 #8潜航では、626mを深度の限度として潜航させ、部分的には30mの一定高度で進んでいます。

 #9潜航では、慣性航法装置から異常な値の出力があり、「r2D4」は途中で潜航の継続を断念して、非常用バラストを含む全てのバラストを投棄して浮上してきています。この原因は、浮上後にデータを調べて突き止められ、今後の潜航に問題がないことを確認しました。

 #10潜航では、15mという高度で海底に接近しようとしました。崖の近くで90度曲がろうとしたときに、海底面に9mまで接近し、これ以上潜航を続けるのは危険であると「r2D4」が判断し、上下スラスタを駆動して、浮上してきました。
 無線で潜航データを母船のコンピュータに送り、「r2D4」がどのような判断で浮上してきたかを突き止め、即座に航路計画を変更して、再度「r2D4」を潜航させています。

 #11潜航では、20mの高度および、緯度で約3秒(約100mに対応する)の間隔で航路を計画しています。浮上中には、磁力計の補正のために360度ターンをしています。

  潜航番号 潜航場所 潜航日時 高度/深度 最大潜航深度
   #8  北東部 2003年12月18日13時15分-16時16分 626m 定深度 626m
   #9  中央部 2003年12月20日08時36分-09時50分 30m 定高度 631m
   #10  中央部 2003年12月21日09時34分-10時03分 15m 定高度 629m
   #11  北東部 2003年12月21日11時32分-14時22分 20m 定高度 663m


3.搭載していた主要な観測用機器

  「r2D4」には観測用に各種センサが取り付けられています。これらからの出力を利用して熱水地帯や冷湧水地帯の観測に知的な行動様式をどのようにさせるかを検討することも今回の潜航の目的の一つです。今回搭載している観測機器は、以下のものです。
   ・サイドスキャンソナー ・インターフェロメトリソナー
   ・温度計 ・電気伝導度計
   ・酸化還元電位計 ・3成分磁力計
   ・マンガン鉄イオン濃度計 ・濁度計
   ・酸素濃度計 ・pH計


これらからのデータについては現在解析中です。

4.計測された地形情報

  サイドスキャンソナーやインタフェロメトリーソナーは、地形の3次元的な情報を得るための強力な装置です。「r2D4」は、運動が安定しているので、解像度の良い情報が得られます。

 添付の図は、サイドスキャンソナーのデータを海底面の起伏に合わせてモザイクしたもので、黒島海丘東北部の微細な構造が見えます。有人潜水船やケーブル付き遠隔操縦機(ROV:Remotely Operated Vehicle)が黒島海丘に潜って調査をしていますが、航路線上の線的な情報しか得られません。自律型海中ロボットからの面的なデータを利用すれば、有人潜水艇やROVのより効果的な運用ができると考えられます。

 インターフェロメトリーソナーの情報を処理するには長い計算時間が必要です。ここではその一部を添付の図に示します。

5.今後の観測活動

 今回の潜航により、少々荒れた海況でも「r2D4」を安全に潜航させ、海底面を観測することができることが示されました。また、潜航深度が深い場合においても、「r2D4」上のトランスポンダを利用して位置誤差を計測し補正すれば、計画航路上をより精度良く航行させることができることが分かりました。
 これらの成果を元にして、ロボット知能と展開方法を改良し、今後のより挑戦的な潜航を目指したいと考えています。

 現在、「r2D4」を用いた観測計画で確定しているものについては以下のものです。

2004年5月: マリアナ背弧海盆の熱水地帯の観測(東京大海洋研究所白鳳丸)
2006年度: マリアナ背弧海盆などの熱水地帯の観測(東京大学海洋研究所白鳳丸)
インド洋中央海嶺(東京大学海洋研究所白鳳丸)

6.本件についての問い合わせ先

連絡先: 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター
センター長、教授 浦  環
〒153-8505東京都目黒区駒場4−6−1
電  話:03−5452−6487
ファクス:03−5452−6488
E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
ホームページ:http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp

配布資料
  1. 「r2D4」の写真
  2. 「r2D4」の一般配置図を含むリーフレット
  3. 黒島海域における行動図(平面図)。地形データは、JAMSTEC(航海ID:YK03-05、Leg1、主席研究者 布浦 拓郎氏)提供
  4. 潜航の鉛直プロファイル
  5. 黒島海域のサイドスキャンイメージ
  6. 黒島海域のインターフェロメトリー図


注1)自律型海中ロボット:
エネルギを内蔵し、センサ情報を基にして搭載されたプログラムで潜航する無索無人潜水機。AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれます。無人潜水機は、通信と電力補給のためのケーブルで母船と繋いで遠隔操縦をする有索無人潜水機ROV(Remotely Operated Vehicle)が現在は主流ですが、今後は、索のないAUVの利用が進むものと考えられます。深海用のROVはケーブルを取り扱う装置が大きなものとなり、船上施設や作業が簡単ではありません。

注2)アールツー・プロジェクト(R-Two Project):
2001年度から5年間の計画で、熱水地帯を集中的に観測できる新しい深海知能ロボット「r2D4」を開発し、これを用いてマリアナ海域などの観測をおこなうプロジェクト「アールツー・プロジェクト(R-Two Project)」がスタートしました。このプロジェクトは、日本学術振興会の学術創成研究「深海知能ロボットの開発研究」の一環としておこなわれているものです。
 Rは中央海嶺を意味するRidge Systemから来ています。その第一期計画がアールワン・プロジェクトで、本計画は第二期なのでアールツー・プロジェクトと呼んでいます。「D4」は最大潜航深度(Depth)が4,000mであることを意味します。
 2003年7月に「r2D4」のハードウェアおよび基本的なソフトウェアの開発が完了(製造:三井造船(株))、7月7日に駿河湾北部において潜航、引き続き7月15日〜19日には日本海佐渡沖において総計約11時間潜航しました。
 学術創成研究の研究チームは、工学系と理学系の合同で構成されています。工学系は、東京大学生産技術研究所海中工学研究センターの所属であり、理学系は熱水系の研究者として日本を代表する方々です。


注3)「r2D4」の特徴:
(主要目性能については配布資料「生研リーフレット」参照)
・小型軽量(全長4.4m、空中重量1.6トン)
大型の支援母船を必要とせず、支援船を特定しない
全自動の潜水機であり、操縦者を必要としない
・自己完結型
トランスポンダ設置などの支援が不必要
高精度位置標定が可能(光ファイバジャイロとドップラーソナー)
4時間の潜航で約30mの位置誤差
高い信頼性と十分な安全対策
・観測用センサからのデータをロボットの頭脳への取り込み
複雑な環境の変化を認識する
・観測経路のダイナミックな変更
特異点の発見があったときに、その原因を探る探索活動

連絡先
東京大学生産技術研究所 海中工学研究センター
東京都目黒区駒場 4-6-1
浦   環
E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
電話:03-5452-6487