自律型海中ロボットによる鯨観測を開始


2000年3月8日



自律型海中ロボットによる鯨観測を開始



東京大学生産技術研究所
 海中工学研究センター


 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター(センター長:浦 環 教授)は、 自律型海
中ロボット(注1)
を観測プラットフォームとして利用する新しい海中観測手法の研究開発を
おこなってきました。鯨類や魚類などの海洋生物の生態の観測はその重要なターゲットのひとつです。

 このたび、海洋生物の観測の第一段階として、2000年3月10日から18日 まで、
(株)KDD研究所(社長:村谷拓郎)および国営沖縄記念公園水族館(館長:内田詮三)と共同
で、沖縄県慶良間諸島の座間味島沖(注2)にて、ザトウクジラの鳴音観測をおこないます。

 自律型ロボットを利用した鯨類の観測は世界で初めての試みであり、また、観測が困難な鯨
類の生態の新しい観測手法を確立するものとして注目されるものです。

 今回展開するロボットは、KDD研究所が1997年に開発して海底ケーブル調査に利用されている
「アクア・エクスプローラ2」(注3)です。ロボットに4本のハイドロフォン(水中マイク
ロフォン)を取り付けて鯨センサーといたします。ロボットは、海中で鯨の鳴音(鳴き声)を
聞き、これを分析して鯨のいる方向を定め、鯨の下に潜り込み、そこでロボットのプロペラを
止めてロボットから出る騒音を最小限にして、質の高い鯨の鳴音を録音します(添付図参照)

 ロボットの最高速力は3ノット(約1.5m/秒)で、鯨の回遊速度に比べて遅いので、鯨が速い
速力で移動するとそれを追いかけることはできません。そこで、ロボットによる観測では、鯨
を待ち受けるか、あるいは一カ所に留まっている鯨に接近するという作戦を採らなければなり
ません。今回の観測では、このようなロボットの展開方法を試み、さらに自動的な鯨の発見と
接近方法を研究するための試験をおこなうと同時に、鯨に接近して鳴音の録音を試みます。

 研究開発の第二段階としては、より安定した鯨観測手法を開発することが挙げられます。ま
た、従来の手法では困難とされてきたマッコウクジラ(注4)の観測やマグロやカツオなど浮
き魚の観測を、自律型海中ロボットを利用しておこなう手法を研究し、さらに専用ロボットお
よびセンサーの開発をおこなう予定です。
 このように、自律型海中ロボットを具体的な海中観測に利用することにより、その用途が広
がり、かつ技術の高度化が推進されるのです。

 3月17日(金)11時より座間味港においてロボットの紹介をおこないます。取材を希望
される方は下記連絡先までご連絡ください。なお、ロボットの紹介については、天候や海況な
どの都合により変更になる場合がありますので、事前にご確認ください。


注1)自律型海中ロボット
海中を観測する移動機械としては、(1)人が乗り込む有人潜水艇、(2)ケーブルで母船と繋がれていて遠隔操縦される有索潜水機(ROV:Remotely Operated Vehicle)が、実用化されています。しかし、前者は人命安全の確保、後者は長いケーブルの取り扱いの不便さ、など問題点が多くあります。エネルギーを持ち、コンピュータからの命令で自動的に海中を運動する潜水機は自律型海中ロボットと呼ばれ、ケーブルの束縛から離れて自由に潜航できるので、新しい海洋観測のプラットフォームとして期待されています。世界中で研究開発がおこなわれており、実用段階に入っています。東京大学生産技術研究所海中工学研究センターでは、開発した「アールワン・ロボット」が1998年に12時間半の連続潜航に成功(http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp/を参照)しており、1999年11月には新しいテストベッド・ロボット「トライドッグ1号」を開発しています。また、KDD研究所の開発したアクア・エクスプローラ2は1999年に台湾近海で約300kmに渡る海底ケーブル観測をおこなっています。
注2)座間味島沖:
座間味島沖には、12月から3月にかけてザトウクジラが訪れます。我が国の「ホエールウォチング」のメッカです。
注3)「アクア・エクスプローラ2」:
全長3m、空中重量260kg、最大潜航深度500mの自律型海中ロボット。海底に敷設されたケーブルの調査をおこなうことを主要なミッションとしています。http://www.lab.kdd.co.jp/kdd/lab/marine/marine.htmlを参照。
注4)マッコウクジラ:
マッコウクジラはクリック音という独特の鳴音を出します。深く潜ることができ、これまでの技術では水中での観測は困難とされています。
 

連絡先
東京大学生産技術研究所海中工学研究センター
東京都港区六本木7−22−1
浦   環
E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
電話:03-3402-6231
携帯電話:090-1409-1626
なお、本件は共同研究である関係上、(株)KDD研究所から郵政記者クラブへも同時に発表されます。

添付図:自律型海中ロボットによる鯨観測の概念図(本図はhttp://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp/からたどればダウンロードすることができます)