大型タンカーの海難救助論
 シー・エンプレス号事故に学ぶ

(株)成山堂書店より1999年8月に発行。A5版約250頁、価格4,400千円(送料、税別)


 1996年2月15日(木)20時07分、130,018トンの北海原油を積載した、リベリア国籍の大型タンカー「シー・エンプレス号」が、英国南西部のミルフォードヘイブン港外で座礁した。座礁後、直ちに救助作業が開始されたが、荒天が災いし、救助作業は難航し、漂流・座礁を繰り返した。2月21日(水)24時00分にようやく本船を港内の桟橋に着桟させ、船内に残った原油を陸揚げすることができた。
 最初の座礁で約2,500トンの原油が、更にその後の救助作業の間に69,300トンの原油が流出し、国立公園内を含む約200kmの海岸線が汚染され、自然環境に深刻な打撃を与えた。英国内のタンカー事故としては、1967年のトリー・キャニオン号座礁事故(119,000トン流出)、1993年のブレア号座礁事故(85,000トン流出)に次ぐ規模であった。
 最初の座礁原因は、水先人の過ちにある。救助作業に長時間を要した原因は、悪天候であったこと、タグボートが不十分であったこと、付近の潮流の理解が十分でなかったことにある。

 英国海難調査局(MAIB)から出されたシー・エンプレス号の事故とその救助の過程の報告書を翻訳し、本文と同量の豊富で親切な解説を加え、日本の現状を紹介しました。本書を一読すれば、多岐にわたる海難の様相とそれを取り巻く世界の情勢が理解されます。専門家でなくともタンカー事故に関係する幅広い事柄(国際規則から油の性質に至るまで)の全貌を理解することができ、万が一にも日本近海で事故が起こった場合に備えることができます。タンカー、港湾あるいは海洋汚染に係わる方々の必読の書です。

執筆者
 浦  環(東京大学生産技術研究所)
 三谷泰久(日本小型船舶検査機構)
 久葉誠司((株)商船三井)
 坂井信介(深田サルベージ建設(株))

第一部 事実関係
 ・船および乗組員の概要  ・事故の経過  ・ミルフォードヘイブン港
第二部 事故解析(最初の座礁)
 ・最初の座礁
 ・水先人の問題
 ・>港内レーダー
 ・ミルフォードヘイブンのコーストガードの配員
 ・エスコートするタグボート
第三部 事故解析(サルベージ作業)
 ・サルベージ作業中のタグボート
 ・緊急時対応計画
 ・サルベージ作業の陸上管理
 ・政府の介入
 ・サルベージ作業の選択肢
 ・その他の重要な考察
 ・瀬取り
 ・船の機関 
 ・機器類の損傷状態
 ・船からの油の流出
 ・船殻の損傷と二重船殻船の検討
第四部 結論
 ・事実確
 ・勧告

訳著者序文
 大規模な海難事故はめったに起きません。また、めったに起きないことを誰もが願っています。しかし、 一旦起これば海洋汚染を含めた大規模な災害を引き起こす可能性があります。海難事故の80%は人的な要 因により引き起こされているといわれています。また、海難事故の処理にしても、適切におこなわれるか どうかは、人間の能力にかかっています。こうした人的要因を減らすためにも、海洋汚染を防ぐためにも、 事故を学び、他山の石としなければならないと思います。しかし、海事には多くの事柄が関係します。 たとえば、本書でも言及されているブレア号の事故に関して書かれた「ドナルドソン報告書」(5.4注参照) は522ページにも及ぶ大部なもので、その内容は、国際法から保険制度まで多岐に渡り、これを読んで、解 説無しにすぐに全部を理解できるものはほとんどいないのではないかと思われるほどです。
 1997年に日本海で起こった「ナホトカ号」の事故でも分かるとおり、事故が起こると待った無しでいろ いろなことが次々と進展していきます。事故が起こってから泥縄で勉強していたのでは間に合いません。 ナホトカ号の事件に係わってより、予め勉強しておく教材がなにかないかと考えていました。しかも、 外国の事例を扱ったものであれば、海難に係わる制度や組織、方法を比較し、有益な知見が得られるだけで なく、条約等の幅広い国際的な海事知識も身につきます。前述のドナルドソン報告書では大部すぎて重過ぎ ます。ちょうどその折、1996年に英国で起こった「シー・エンプレス号」の事故の報告書が英国海難調査 局(MAIB:末尾注参照)より出ました。事故が進行していく経緯、人々の行動、批評と提言が程よくまとめて あり、また、厚さも適当です。これなら教科書になるなと直ぐに思いました。そこで、(社)日本造船研究協会 のバックアップを得て、有志を募り、1998年2月より東京大学生産技術研究所において夕刻7時から勉強会 (参加者名簿を本文末に記載)を隔週に開き、これを約4ヶ月で皆で議論し、読破しました。事故は、パイロ ットの過ち、サルベージ対処の数々の失敗の連続の内に、大量の原油が流出して、大災害を起こした事故です。 勉強会が終わって、これを解説付きの翻訳書として出版することを日本小型船舶検査機構(運輸省から出向中) の三谷泰久氏、(株)商船三井、深田サルベージ建設(株)にご相談したところ、ご賛同を得ました。この4名で 「生研海難塾」を構成し、本書をまとめました。三谷氏は、油タンカーに二重船殻を強制化したMARPOL条約 改正時の在英日本大使館の一等書記官(国際海事機関担当)です。(株)商船三井からは豊富な乗船経験と船長 の資格を持ち、現在は本社海務部で海難対応と事故防止を担当しておられます久葉誠司氏、深田サルベージ建設 (株)からはシニアーサルベージマスターとして救助作業に豊富な経験と知識をお持ちの坂井信介氏が参加いた しました。出版の目的は、海難と海事に関する幅広い知識を、事故報告書を読みながら得られるような教科書を 作り、海難事故に備えることです。造船や海運あるいはサルベージに直接に関係する専門家のみならず一般の読 者にも、海難がどういったものであるかを勉強できるようなものとしたい、と欲張っています。左ページには報 告書の訳を載せ、右ページに用語の解説などを載せるという、高校時代に読んだ古文や漢文の教科書のような形 式を取りました。解説には、基礎的なものも多く加えています。また、できるだけ最新の知見を加えて、専門家 にも満足のできるものを目論みました。
 翻訳と解説は、勉強会の翻訳の資料を基にして、三谷、久葉、坂井および浦が全面的に書き直し、解説も分担 しました。翻訳については、用語の統一などに努め、また、直訳調にならないようにしましたが、必ずしも十分 ではないことをお断りしておきます。これは、万全を期した完璧なものを準備するには時間が必要であり、少々 の瑕疵があろうともできるだけ早く出版したいと願ったからです。特に英国の組織についての訳が日本の組織と 対応していないこともあり、難しく、日本語にうまくなっていないかもしれません。その点は、右ページに書か れている原文を参照してください。
 本報告書の図表は、原書と同様に本書末に入れてあります。理解の参考になる図は適宜右ページに加えました。 しかし、ページ構成の関係上左ページの本文中に入れてある部分もあります。重要な事項で、分量の多い解説に ついては、囲み記事として章末などの記載しました。
 本報告書では流出した油の処理については触れていません。これには別の報告書が英語とフランス語で出てい ます。したがいまして、本書でもほとんど触れていません。
 英国では、1998年春にばら積み船「ダービシャー号」の事故調査報告書が出ました。ブレア号、シー・エンプレス号、そしてダービシャー号とそれぞれ特徴のある事故報告書は、読み応えがあります。これらを作る努力は並大抵のものではないと思われますし、こうした努力が、海難事故を減らす原動力となることは明らかです。本書がわが国において海事の理解と海難や海洋汚染の対処に役立てば幸いです。
 本書を出版するに当たり、運輸省海上技術安全局の池田陽彦氏(シー・エンプレス号の事故が起こったときの在英日本大使館の一等書記官)には、英国運輸省からの版権取得、資料提供等に全面的な協力を頂きました。また、文章の平易化、校正などは秘書杉松治美女史に多く負い、土曜日や日曜日の早朝から夜遅くまでの生研海難塾に毎回同席してもらい、編集作業を手伝ってもらいました。また、不明な点については、在日英国大使館商務部の山田真紀子女史、(社)日本船主協会の赤塚宏一氏、住友重機械工業(株)の関屋収氏、ノルウェー船級協会の並川俊一郎氏をはじめとする多くの方々に意見を賜っております。ここに深く感謝いたします。また、MAIBの関係者の方々が原書の翻訳に快く同意下さいましたことを感謝する次第です。
 最後になりましたが、本書の意義をご理解くださり、出版をお引受けくださいました、(株)成山堂書店に心より感謝申し上げます。

1999年3月訳著者代表  浦   環

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