自律型海中ロボット「r2D4」ロタ海山の熱水プルームを探る

2004年06月08日

r2D4研究開発チーム


1.概要

 自律型海中ロボット(注1)は、海中や海底の観測のための新しい動くプラットフォームとして発展が期待されており、研究開発が進んでいます。海底に拡がる背弧海盆や中央海嶺の熱水地帯、大陸棚斜面のメタンハイドレート地帯などは広大であり、自律型海中ロボットを用いた観測活動が期待されている海域です。

 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター(センター長:浦 環 )は1984年より自律型海中ロボットの開発研究に着手し、これまでに様々な自律型海中ロボット(http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp/参照)を開発し、多くの成果を挙げてきました。中型の自律型海中ロボット「r2D4」(注2、注3)は、深海知能ロボットとも呼ばれる最新鋭のロボットで、2003年7月に最初の潜航をおこない、日本海の佐渡島沖の断層の観測に成功しています。

 「r2D4」を展開して潜航経験を増やし、潜航結果と観測結果をフィードバックして「r2D4」の性能を向上させ、また、無人機の自律機能の可能性を探るために、「r2D4」の研究開発チーム(東京大学生産技術研究所、同海洋研究所、東北大学、京都大学、産業技術総合研究所、および三井造船(株)(社長:元山登雄)のメンバーにより構成される)は、海洋研究開発機構所属の「白鳳丸」(船長:稲葉不二夫氏)を支援母船(注4)として2004年5月27日にグアム島アプラ港からマリアナ海域に向けて出港し、まずFlyer Siteで2,100m深度までの潜航を1回おこなった後、29日にロタ島の北西約100kmの WN 1 ロタ海丘に到着、6月1日までに7回の潜航をおこないました。
 マグマ活動が活発な(注5)富士山のような形をしたロタ海山の頂上にて、「r2D4」は熱水プルーム中を航行することに成功しました。搭載している現場型マンガン分析装置などにより熱水プルームの計測をおこなうと同時に、熱水プルームを貫いて航行するときにロボットの底部にあるテレビカメラにより熱水プルームの様子を撮影することに成功しました。計測データについては現在詳細を解析中です。山頂の形状はサイドスキャンソナーとインターフェロメトリソナーにより詳細に計測されており、活動中の海底火山の全体形状が明らかになると期待されます。

2.潜航の概要

 1)ロタ海丘
 NW 1 ロタ海丘は、14:36N、144:46Eに位置する山頂部深度521.8mの海底活火山です。2004年4月、ここでマグマ活動が活発になっていると報告がありました(注5)。 そこで、当初の計画を変更して、ロボットでこの海山を観測することを試みました。

2)潜航方法
 「r2D4」は、潜航直前に緯度、経度及び深度で表された航路点(Way Point)および航路点間の行動様式が書かれた潜航計画表を受け取ります。海面上の「r2D4」は潜航開始の指示を無線で受けるとこの計画表に従って潜航します。障害物を回避する行動や自身の状態をモニターして行動計画を変更することに関して、「r2D4」はオペレータの指示を仰ぐことはせず、自ら決定して潜航をおこないます。したがって、母船上の我々は、「r2D4」に取り付けられた音響発信器(トランスポンダ)からくる信号により「r2D4」の位置を知って、帰ってくることを待つだけです。

 「r2D4」の内部状態は、音響通信装置を使ってモニターすることができます。しかし、それは、母船上の我々が安心するためにのみ使い、緊急の場合(例えば海況が急に悪くなって浮上しなければならない場合)や、「r2D4」の慣性航法装置に誤差がたまってきて位置誤差を補正する必要が生じた場合など以外に、我々は「r2D4」に何かを命令することはありません。

3)潜航
 7回の潜航の概要は以下に示す通りです。海況および時間的な制約の中で最大限の潜航をおこないました。

 #13潜航(注6)では、西側の崖に10mまで接近しました。

 #14潜航では、東側の崖に4mまで接近しました。このとき、Mnイオン濃度が極めて高い値を示し、そこから熱水が湧出していると判断しました。

 #15潜航では、500mと400mの一定高度でグリッドを描き、主としてサイソスキャンソナーでの観測を行いました。

 #16潜航では、頂上の崖の上から崖下へと繰り返し飛び降りる潜航をおこないました。その結果、崖の東の部分および西の部分で高いマンガンイオン濃度を検出しました。その値の変化の一例を南北の断面で添付図に示します。また、その後で、1,400m深度にあるこぶを観測にいきました。この潜航の経路計画とロボットが認識した経路を添付図(配付資料3)に示します。

 #17潜航では、上下に潜航して垂直スラスタの調整をおこないました。

 #18潜航では、センサに異常が発生して潜航を途中で中止して浮上しました。

 #19潜航では、頂上付近でビデオ撮影をおこない、プルームを突き抜ける際の映像を録画しました。その一画面を添付図(配布資料4)に示します。これ以前の潜航では、エネルギの節約のためにビデオ撮影はおこなっていません

3.主要な観測用機器とデータ

  「r2D4」には観測用に各種センサが取り付けられています。これらからの出力を利用して熱水地帯や冷湧水地帯の観測に知的な行動様式をどのようにさせるかを検討することも今回の潜航の目的の一つです。今回搭載している観測機器は、以下のものです。
   ・サイドスキャンソナー ・インターフェロメトリソナー
   ・温度計 ・電気伝導度計
   ・酸化還元電位計 ・3成分磁力計
   ・マンガン鉄イオン濃度計 ・濁度計
   ・酸素濃度計 ・テレビカメラ


 これらからのデータについては現在解析中ですが、#16潜航時のマンガンイオン濃度計の出力図を添付します(配布資料6)。このデータから、ロボットが崖の上から熱水プルームの中に突っ込んでいく様子がうかがい知れます。

4.計測された地形情報

  サイドスキャンソナーやインタフェロメトリーソナーは、地形の3次元的な情報を得るための強力な装置です。「r2D4」は、運動が安定しているので、解像度の良い情報が得られます。

 添付の図(配布資料7)は、サイドスキャンソナーのデータを海底面の起伏に合わせてモザイクしたものです。自律型海中ロボットからの面的なデータを利用すれば、有人潜水艇やROVのより効果的な運用ができると考えられます

5.観測の成果と今後の観測活動

 今回の潜航で、「r2D4」は、活動中の海底火山のように危険の多い海域中にあっても安全に潜航し、崖など起伏の多い複雑な海底面を観測し、熱水プルームや熱水の湧出などの観測をおこなうことができました。AUVとしての「r2D4」の能力を発揮したと考えます。
 また、対地ドップラソナーの届かない200m深度より深い所へ潜航する場合においては、「r2D4」上のトランスポンダを利用して位置誤差を計測し補正すれば、計画航路上をより精度良く航行させることができるシステムを開発し、このシステムを用いて潜航をおこないました。今回、3,000m級のFlyer Siteへの潜航も試みましたが、2,100m深度においてロボットに機器異常が発生し緊急浮上したため、最深部への挑戦は今後の課題となりました。
 これらの成果を元にして、今後ロボット性能と知能および展開方法をさらに改良し、より挑戦的な潜航を目指したいと考えています。

 現在、「r2D4」を用いた観測計画で確定しているものについては以下のものです。
2006年度: マリアナ背弧海盆などの熱水地帯の観測(JAMSTEC白鳳丸)
    インド洋中央海嶺(JAMSTEC白鳳丸)

6.本件についての問い合わせ先

連絡先: 東京大学生産技術研究所海中工学研究センター
センター長、教授 浦  環
〒153-8505東京都目黒区駒場4−6−1
電  話:03−5452−6487
ファクス:03−5452−6488
E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
ホームページ:http://underwater.iis.u-tokyo.ac.jp

配布資料
  1. 「r2D4」の写真
  2. 「r2D4」の一般配置図を含むリーフレット
  3. ロタ海山の位置およびロタ海山海域における行動図(平面図)。地形データは、本航海で計測されたもの。
  4. 熱水プルームのビデオシーン
  5. 高いマンガンイオン濃度が観測された平面位置
  6. ロボットの鉛直面内軌跡とマンガンイオン濃度値
  7. サイドスキャンソナーデータ


注1)自律型海中ロボット:
エネルギを内蔵し、センサ情報を基にして搭載されたプログラムで潜航する無索無人潜水機。AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれます。無人潜水機は、通信と電力補給のためのケーブルで母船と繋いで遠隔操縦をする有索無人潜水機ROV(Remotely Operated Vehicle)が現在は主流ですが、今後は、索のないAUVの利用が進むものと考えられます。深海用のROVはケーブルを取り扱う装置が大きなものとなり、船上施設や作業が簡単ではありません。

注2)アールツー・プロジェクト(R-Two Project):
2001年度から5年間の計画で、熱水地帯を集中的に観測できる新しい深海知能ロボット「r2D4」を開発し、これを用いてマリアナ海域などの観測をおこなうプロジェクト「アールツー・プロジェクト(R-Two Project)」がスタートしました。このプロジェクトは、日本学術振興会の学術創成研究「深海知能ロボットの開発研究」の一環としておこなわれているものです。
 Rは中央海嶺を意味するRidge Systemから来ています。その第一期計画がアールワン・プロジェクトで、本計画は第二期なのでアールツー・プロジェクトと呼んでいます。「D4」は最大潜航深度(Depth)が4,000mであることを意味します。
 2003年7月に「r2D4」のハードウェアおよび基本的なソフトウェアの開発が完了(製造:三井造船(株))、7月7日に駿河湾北部において潜航、引き続き7月15日〜19日には日本海佐渡沖に、12月15日〜21日には相模海丘および黒島海丘おいて、総計約42時間潜航しました。
 学術創成研究の研究チームは、工学系と理学系の合同で構成されています。工学系は、東京大学生産技術研究所海中工学研究センターの所属であり、理学系は熱水系の研究者として日本を代表する方々です。


注3)「r2D4」の特徴:
(主要目性能については配布資料 2「生研リーフレット」参照)
・小型軽量(全長4.4m、空中重量1.6トン)
大型の支援母船を必要とせず、支援船を特定しない
全自動の潜水機であり、操縦者を必要としない
・自己完結型
トランスポンダ設置などの支援が不必要
高精度位置標定が可能(光ファイバジャイロとドップラーソナー)
4時間の潜航で約30mの位置誤差
高い信頼性と十分な安全対策
・観測用センサからのデータをロボットの頭脳への取り込み
複雑な環境の変化を認識する
・観測経路のダイナミックな変更
特異点の発見があったときに、その原因を探る探索活動


注4)KH-04-2 レグ2航海:
主席研究員 塚本 勝巳 教授(東京大学海洋研究所)

注5)NOAAのRing of Fire 航海:
NOAAのRing of Fire 航海のWebページ2004年3月30日を参照。
 http://www.oceanexplorer.noaa.gov/explorations/04fire/logs/march30/march30.html

注6)「r2D4」の潜航番号:
「r2D4」の潜航番号は2003年7月の初潜航時の#1に始まる通し番号です。


連絡先
東京大学生産技術研究所 海中工学研究センター
東京都目黒区駒場 4-6-1
浦   環
E-mail:ura@iis.u-tokyo.ac.jp
電話:03-5452-6487