航行型無索無人潜水艇「PTEROA150」

東京大学生産技術研究所 浦   環
東京大学生産技術研究所 能勢 義昭
東京大学生産技術研究所 坂巻  隆

Here is English version.



実海域でで実験中のPTEROA150

1.PTEROA計画の経緯

   海中活動を支援するには、さまざまな形式の潜水艇が必要となる。人が乗らず、アンビリカルケーブルを持たない無索無人潜水艇は、その一形式である。深海の海底面直上を航行し、計測活動をおこなう航行型無索無人潜水艇のプロトタイプの開発を目的としたプロジェクト「PTEROA計画」1)が東京大学生産技術研究所にておこなわれ、パイロットモデル「PTEROA150」が1989年に建造された。

2.パイロットモデルPTEROA150の開発

2.1 基本的な考え方

  海中での超音波による遠隔操縦はデータ密度の低さと、時間遅れにより、大きな制約を受ける。したがって、無索無人潜水艇は「自立した自律型ロボット」となる。この分野は工学的な研究対象として極めて高い興味を引くものであり、将来の発展が期待されている。したがったって、PTEROA計画の研究の立場を、「航行型の海中ロボットの開発を通じてUnderwater Roboticsを研究する」と表す。

2.2 ミッション


PTEROA艇のミッション

 無索無人潜水艇の最大のメリットは、自由な航行が可能であることである。この利点を生かした航行パターンとして、

  1. 母船よりグライディングで海底の目標点に到達する。
  2. 海底面を一定高度を保って航行する。
  3. 母船にグライディングで帰還する。
(2)においてどのような計測活動(ミッション)をするかを決めるのは、利用者の仕事である。工学の立場としては、(1)〜(3)を実行する艇(Vehicle)を実現することであり、利用者に潜水艇を提供することである。したがって、艇そのものは汎用性に富むものを考える必要がある。そのために、PTEROA艇が想定しているミッションは海底面の撮影やCTDOの計測など極めて単純なもの である。

2.3 PTEROA150の設計


PTEROA150の一般配置図(番号は次のテーブルを参照)

PTEROA150の主要目、性能とその主な装備品

 試作されたパイロットモデルPTEROA150の外形は、

 (1)胴体
 (2)左右エレベータ
 (3)左右垂直安定板および舵
 (4)左右プロペラおよびノズル
 (5)左右スケグ

より成り、胴体内部に、

 (6)電源
 (7)制御装置
 (8)左右インバータおよび左右誘導モータ
 (9)アクチュエータ
 (10)測距装置
 (11)慣性装置
 (12)トランスポンダ
 (13)浮力材

等が収められている。
 耐圧容器は

 (1)主制御装置
 (2)電源A
 (3)電源B
 (4)慣性装置
 (5)測距装置
 (6)左−インバータ
 (7)右−インバータ
 (8)磁気センサ

の8つに分離されている。このように細分化されているのは、胴体の内容積の形状による制限によって、配置を考えてそれぞれを分離する必要があったことと、モジュール化を目指したことによる。

 艇の大きさは極力小さくし、水槽実験ができる規模で、実験室での取扱いが容易な大きさとした。CPUやインターフェイスは、パーソナルコンピュータの拡張スロットに入る汎用品とした。このため、システムの変更は容易である。しかし、収納する耐圧容器の容積が大きくなっている。

 艇体形状は、できるだけ突起物の少ないものとし、グライディングのための揚力が胴体より発生するようにし、中央縦断面がNACAOO30翼型で横断面がおよそ楕円形になるようにした2),3),4)。胴の深さの最大部分は7ssになり、胴の容積は約0.08L^3である(Lは胴の長さ)。

 この艇体形状により最小俯角15度でグライディングすることができる。すなわち、2,000m深度では、母船より約7km離れた場所に到達することが可能となる。この性能により、PTEROA150の運航に際して母船の移動をより少なくすることができる利点が生まれる。

 浮心(外形に囲まれる空間の図心)が6ssのわずか後ろにあるので、重心はその前方中心線上の胴の対象面の下とし、縦運動とロールの安定性の向上を図った。デバラストの位置も浮心・重心を勘案して決めてある。

 推進器は定格300W誘導モータ(常用回転数1,500rpm)を油浸にし、プロペラに直結して用いた。ちなみに、水平航行速度が1m/secのときの回転数は約600rpmである。交流電力供給のために専用の小型インバータを試作して用いている。

 左右エレベータおよび垂直舵の回転は、油浸ステップモータの回転をボールネジで往復運動に変えておこなっている。回転角速度の最大値は、エレベータで約30deg/sec、垂直舵で約1deg/secである。

 電源系統は、推進装置用48V系、CPU・測距センサ用12V系の2系統である。

 測距装置は50mまでの計測を対象と考え、150KHzの超音波を用い、4本の測距ビームを艇の前方、30°下方、60°下方、真下に出し、0.4秒を計測の1周期とした5)

 環境計測装置(ペイロード)としては、35mmカメラとストロボを備えるだけである。

 艇体が小さく、耐圧容器の容積が大きいために、浮力材の充填率を最大限に取っても(空き空間への充填率約65%)耐圧容器の設計荷重を6,000m深度相当にすることができない。そこで、耐圧容器の設計荷重は約2,000m深度相当とした。ただし、耐圧容器、浮力材、を除いたその他の装置類の設計深度は6,000mとした。

 艇の位置の認識は慣性装置でおこなうが、その精度は良くない。原則的には、母船上に設置されたSSBLを用いておこない、回収後に修正することとする。

 艇のCPUはRS232Cコネクタを通じて、陸上支援装置と結び、スレープ状態とすることができる。また、外部電源も供給できるので、有索潜水艇として航行させることもできる。

2.4 制御ソフトウェアの構造


制御ソフトウェアの構造

 制御ソフトウェアの構造としては、定高度維持航行のための制御はメイン制御ルーチンでおこない、バラスト投棄や各種パラメタの変更などはイベントプログラムの実行ルーチンでタイミングを合わせておこなう。

 イベントのタイマーであるスケジューラのクロック周期は0.1秒となっている。

 

2.5 水槽試験


一定深度試験(速度約1m/sec)

 図は運輸省船舶技術研究所の400m水槽において一定深度(1m)を維持する航行試験をおこなったときの深度、ピッチ角、エレベータの平均切り角、を示している。航行速度は0.96m/secである。潜水艇の長さが1.5mであることを考えると、充分な制御がおこなわれている。ロールに関しても左右のエレベータを反対方向に切って制御をおこなっている。深さに関する制御は、目標距離を用いた線形フィードバック則である5)。運動情報等の計測は測距データとあわせて0.4秒を1周期とし、エレベータのトリム角は1秒に1回変更している。


目標深度を逐次変えた航行試験。縦線の時点で目標深度を1mあるいは2mに変えている。制御アルゴリズムが充分にチューニングされていないのでオーバーシュートが大きいが、目的はおおよそ達成されている。有索潜水艇では索の影響を受けるので航行中はこのような細かな制御は困難である。

 図は一定時間の経過の後に(図中の縦線)、目標深度を1mから2mに(あるいはその逆に)設定し直して艇を上下に運動させた例である。目標深度を十分に追従している。ヒーブ運動が起こるとロールが連成するが、これはエレベータの左右の切り角を変えて自動的にもとに戻されている。

 ピッチ運動およびロール運動の制御ゲインはそれぞれのZ試験をおこなって求めた。方位の制御は現在のところ積極的にはおこなっていないが、左右推進器の回転数(インバータコントロール電圧に対応)を変えることにより制御できる。

3.実用艇PTEROA250の設計

3.1 設計思想

 パイロットモデルPTERO150には、

  1. 潜降最大深度が2,000m以下であること
  2. 推進器を使った航行の継続時間が40分(最大速力約3ノット時)
  3. ペイロードが35mm写真撮影機分
という制約がある。実用艇を考えるときにはこの制約は大きすぎるので、艇を大型化して余裕を取り、これらの制約を緩和することを考える。

3.2 PTEROA250の概要


PTEROA250の一般配置図(番号は次の表を参照)

PTEROA250の主要目、性能とその主な装備品

 設計条件は、

  1. 潜降最大水深6,000m
  2. 巡航速度最大4ノットで100分間
  3. ペイロード80,000cm^3、湿重量16Kg
  4. 外形はPTEROA150に相似形
とし、他の設計要素はPTEROA150と同じとして、艇の設計をおこなった。設計された艇を「PTEROA250」とよぶ。

 主要な変更点は、

  1. 胴の長さを2,5mとし、乾燥重量を約1トンとする。
  2. 計測制御関連の処理装置類をCPUと同じ耐圧殻に収容する。
  3. 油浸NiCd電源とする。
浮力材の充填率は約62%となった。

 艇の大きさを決める要因は、電源である。電源の性能(容量/重量)が増せば、艇を小さくする、あるいはより長時間航行させることができることはいうまでもない。

4.おわりに

 過酷で隔絶された海中環境のゆえに、海中ロボットの開発と活躍が期待されている6)。開発されたものを用いて新しい発見等がおこなわれて、その重要性が利用者の側にも認識される必要がある。PTEROA計画ではプロトタイプPTEROA250を提示した。利用者がPTEROA250により利用者の希望するミッションの実行可能な海中ロボットをイメージできれば幸いである。

 本研究を遂行するにあたり、「PTEROA計画」のメンバーである、東京大学生産技術研究所前田久明教授、同工学部石谷久教授、同先端科学技術研究センター河内啓二助教授、電気通信大学竹内倶佳助教授より、多大なご協力ご助言を賜った。パイロットモデルの実験に関して、東成光所長をはじめとする(財)日本造船振興財団筑波研究所の方々、運輸省船舶技術研究所北川弘光部 長をはじめとする推進性能部の方々、より種々ご便宜をはかっていただいた。ここに改めて深甚なる感謝の意を表す次第です。

参考文献目録

  1. 浦ほか:"深海調査のための自律型潜水艇の研究開発",第9回海洋工学シンポジウム,1989
  2. 浦・大坪:"航行型無索無人潜水艇に関する研究(その1、グライディング航行の研究)",日本造船学会論文集,Vol.162,1987
  3. 前田ほか:"無人無索潜水艇に働く流体力及び操縦応答に関する研究",日本造船学会論文集,Vol.164,1988
  4. 前田ほか:"航行型潜水艇の運動性能推定法に関する研究",第9回海洋工学シンポジウム,1989
  5. 石谷・馬場:"翼状航行型潜水艇姿勢制御方式に関する考察",日本造船学会論文集,Vol.162,1987
  6. 浦:"無人潜水艇の現状",日本造船学会誌,Vol.725,1989

PTEROAに関する参考文献一覧



Last modified: 970217.2203
URA Laboratory, IIS, The Univ. of Tokyo / auvlab@iis.u-tokyo.ac.jp