適応制御による海中ロボットの行動制御

執筆担当 林雲聰

Here is English version.


 海中ロボットの動特性は、一般に非線形であり、線形理論によるコントローラの設計は困難である。航行型の自律海中ロボットでは、スライディング・モード制御、ファジー制御及びニューラルネットワーク制御などの制御手法が提案されている。しかし、いずれもコントローラの設計にあたって、ロボットの動特性の同定モデルが必要となる。非航行型の海中ロボット"Twin-Burger"においては、その形状が複雑なことと低速運動時の非線形のために、同定モデルの獲得が難しく、しかも運動速度の影響が大きいため、常にモデルを更新しないとその妥当性が失われてしまう。我々は海中ロボットの動特性をブラック・ボックスとして、その位置を制御するために、多次元のモデル規範型適応制御系(MRAC:Model Reference Adaptive Control)を用いる手法を研究している。すなわち、ロボットの非線形的な動特性を多次元線形モデルで近似し、そのパラメータをオンラインで、適応的に求め、得られたパラメータに基づいてコントローラを調整するという方法を採用する。

 このようなロバスト適応制御を実際に海中ロボット"Twin-Burger"に適用し、ヘディング角及び航行深度の制御システムを構築して、その有効性を確認するために、実際に航行実験を実施した。さらに、海中ロボットの行動シーケンスを短縮するために、ヘディング角と航行深度を同時に変化させるときの制御、すなわち2自由度の制御についても、実験を通して検討した。


Yaw運動の制御

制御システムの基本構成を下図に示す。

 Yaw運動制御の場合、制御システムの入力と出力はそれぞれロボットのヘディング角の目標値と計測値である。操作量はスラスタへの入力電圧で、これは予め実験的に求められた関数によってロボットの回頭モーメントに対応づけられる。操作量に対してヘディング角は積分的であるため、それを直接にMRACによって制御する場合、システムが不安定になりやすく、適応の収束が遅いという問題点がある。従ってYaw運動を制御するには、ヘディング角のエラーを簡単なPIコントローラでフィードバックする外ループと、ヘディング角の微係数である角速度をMRACによって制御する内ループを含む二重システムを採用した。

 内ループではのMRACシステムでは、"Twin-Burger"のスラスタの出力が限られているため、制御量の飽和を考慮して、制御量の飽和による不安定化が起こらない入力誤差MRAC(Input Error Model Reference Adaptive Control)を用いた。 規範モデルを次式で表れる8次元とした。



Heave運動の制御

 Yaw制御システムはHeaveの制御にも基本的に適用できる。システムの入力と出力はそれぞれロボットの潜航深度の目標値と計測値で、操作量はスラスタへの入力電圧である。下図に示すように、Yaw運動の制御と同様の二重システムを考える。この制御システムにはプラントの直前にあるスケール・ブロック及びHeave運動の計測値に加えるフィルターの2つのブロックを追加する。



ロバスト適応則

 MRACにおいては、プラントの入力と出力は状態観測器を経由して同定器に入力され、そこでパラメータの数値を求め、得られたパラメータに基づいてコントローラを調整する。一般に外乱やunmodeled dynamicsに対してMRACのロバスト性を確保するため、パラメータ調整則式に不感帯を導入する方法がある。しかし、外乱がなくなっても出力誤差は零にならないこと、さらに不感帯の幅を決めるのに外乱の大きさの上限値が既知でなければならないという難点がある。我々は非線型適応則を導入することによって、不感帯の幅を選ぶことが避けられ、かつシステムの安定が確保できる。

実験結果

 以上に述べた制御システムをもつ海中ロボットを用いて、東京大学生産技術研究所内のプールで実験をおこなった。海中ロボット"Twin-Burger"について、25秒間の変化パターンを考え、これを繰り返し実行する。ヘディング角変化パターンは

と設定する。深度変化パターンは

と設定する。HeaveとYawの運動を同時に制御する実験をおこない、実験結果は下図に示す。ヘディング角と深度、両方とも位置のトラッキング制御が良好であり、適応が進むについて、トラッキング・エラーが減少していることがわかる。




Last modified: Tue Jun 6 17:49:16 1995

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